「缶けり」  小学校を卒業して丁度20年…近所で蕎麦屋のあとを継いだクラス委員長の呼び かけで、同窓会が開かれた…会場は、通っていた小学校の校舎、六年一組の教室。  我々が子供の頃に通っていた木造の校舎は既に無く、鉄筋で出来た冷暖房完備の 当時通っていた我々には羨ましい環境の近代的な鉄筋校舎になっていた…  この町は都会にあるためか地元に残る奴らが多く、口コミで呼びかけたのに、27 人も集まった。  かつて45人居た六年一組は、1人が病死、3人が事故死、7人が行方しらずの 連携の良さには今更ながら驚いた。  女子のその殆どが既に結婚して子供が居る。男子は、当日来た殆どの奴らが親の 仕事を継いでいる。  かつてこの六年一組を担当していた恩師はとうに亡くなり、教壇には遺影が飾ら れていた…  持ち寄った飲み物や食い物を出し合って、賑やかに懇談会が始まった。  この六年一組を牛耳ってクラス委員長もほとほと手を焼いていたあいつが今は子 沢山の子煩悩親父になっていたり、クラスでいじめられっ子のあいつが、今では立 派な警察官。  会話が進むに連れ、暴露や意外な真実が飛び出して、会場を驚きと爆笑の渦とな る。  そして、会話が続きいつの間にか時間の経つのも忘れてしまう。  …そして夕方、つきぬ会話のネタが多いけど、取りあえずここでの会は終わりに して次に行こうと言うことになった…しかし、日はまだ高く、飲み屋に行くのも気 が引ける。  そんなとき誰かが言い出した、    「缶けりしようぜ」  その言葉にみんな一瞬戸惑ったが、小学校の教室にいるせいか我も我もと童心に 返って裏の神社に移動した。  子供の頃、この神社でみんなしてよく遊んだ…しかし、今行ってみると神社の境 内に当時沢山生い茂っていた木々は倒され、その跡に広い駐車所が出来ていた。  ボロボロだった社殿は、立派な鉄筋の社殿になっていた。  皆は言葉をしばし失い、せっかく返った童心もすっかり萎えてしまった。  それから、皆は自然と思い思いの所に行って、口々にこの神社の想い出を語り出 した。  ある者はご神木に寄りかかって  「ここから富士山をよく見ていたなあ…」 とつぶやき、またある者はわずかに残っている木の陰に周り、  「よくこうして木の影に隠れたが、この腹では、すぐに見つかってしまうなぁ…」 とか言って苦笑いをし、ある者は朽ちかけた金網を見て  「ここって、こんなに低かっただろうか…こんな所、よく登ったなぁ…」 と、感慨に耽っていた…  そうして、20年間経つ間失った物の大切さを思い出し、知らず知らずのうちに 皆涙を流していた。 藤次郎正秀